11月30日、秋田市のにぎわい交流館AUにて「ソウゾウの森大会議2024」が開催されました。
一年の締めくくりということでその内容も盛り沢山だった大会議。2回に分けてその様子をお届けします。
前編はこちら
ディスカバーマップを活用したワークショップを前にコーヒーブレイク。さとやまコーヒーの大西克直さんからスペシャルティコーヒー、マチノミナト COFFEE HOUSEの盛光瑠衣さんから和紅茶が振る舞われる。二人は2023年にそれぞれが暮らす地域でソウゾウの森会議の地域主催者も務めた。飲み物のお供はさとう菓子店のパウンドケーキやスコーン。
大会議に相応しい、地域起業家達のおもてなしを感じる。エチオピアの農園から直接仕入れた豆、地域を行き交う人たちにとっての港となる場を目指しているという店のコンセプト、地のものや人との繋がりを込めた焼き菓子。茶菓そのものだけでなく、ストーリーや思いも一緒にいただいた。
小腹も心も満ちたところで、ソウゾウの森大会議の後半が始まる。




まざりあう、可能性の種
後半のメインとなるプログラムはワークショップ「ソウゾウの森になる」。ファシリテーターは、国際教養大学の工藤尚悟先生と株式会社ロフトワークの佐野まり沙さん。席に戻ると、机一杯にディスカバーマップが準備されていた。眺めると、秋田県地図の周りに、各地域の名産や伝統行事、地域起業家や統計データなどがびっしり並んでいる。住んでいる町や隣接自治体の情報に目新しいものはなかったが、森林の面積や風力発電の浸透度などのデータ、産業の分布などは改めて地図で俯瞰して見ると興味深い。

ワークでは、青と黄の付箋を使ってグループごとにディスカバーマップを作成する。青色の付箋には「私(たち)が取り組んでいること、今まさにはじめようとしていること」、黄色の付箋には紹介したい「応援している、人に知ってほしい◯◯さんの取り組み」を書き出す。言い換えれば、青は自薦、黄色は他薦の色分けだ。起業やプロジェクト、小商いなど、対象は問わないとのこと。
考える時間は各色2分と短かったが、よく利用するお店のオーナーや友人の行っている活動を応援の気持ちで書き出す。ただ店の特徴やメニューを書き連ねるだけでなく、店主や発起人の人柄や思いにまで想像が及ぶのは、ソウゾウの森会議を通し各地を訪れ、背景にいる人々が思い浮かぶ距離感ゆえだと小さな幸せを噛み締める。1人あたり4〜6枚の付箋が書き出され、すぐにマップ下部に用意されたスペースは埋まった。

続くグループでの共有の時間。秋田公立美術大学のある学生は、由利本荘市の「鳥海山 木のおもちゃ館」について。現状、各地の木のおもちゃを集めている当施設が、県内全域におもちゃを広める役割を担うのはどうだろうか、と夢を語ってくれた。県全体を遊び場とするようなアイデアにワクワクする。
また、秋田出身で現在は東京でワークショップ運営などの事業を行う女性は、横手市にある「スーパーモールラッキー」を挙げる。自前で各町内へお買い物をバスで走らせていることや、生鮮食品からキャンプ用品まで揃うホームセンターを超えたスーパーセンターというカテゴリーについて、興奮気味に共有してくれた。
グループ内での発表が終わると「探検」の時間、他グループのディスカバーマップを見に行く。グループの数だけ多様なマップが完成し、参加者の年齢、居住地、業種や興味のまざりあった魅力の種がたくさん生まれていた。




10年後の秋田
ワークショップの終盤、「将来こんな風になっていたら嬉しいこと、10年かけて育てて行きたいこと」をそれぞれ書き起こし、ディスカバーマップの最下部に貼る。
さきほどの学生は、「全体的に明るくなること、電灯が増えてほしい」と書き出す。秋田での生活に慣れてしまいあまり気にかけることがなかったが、確かに夜は真っ暗。車のライトや民家から漏れる明かりがなければ、一寸先は闇ということも珍しくない。若者からの素直な意見に、「そういうものだからしょうがない」と決めつけず、疑問や希望を言葉にできていなかったのではないかと自身を振り返る。
また、スーパーモールラッキーを挙げた女性は「人それぞれが”これをしたい”と言える、それぞれの”これをしたい”を応援できる環境がある」と書いていた。裏を返すと、彼女が育ったこれまでの秋田は”これをしたい”と言い出しにくい環境であったのだろう。どうすれば一人一人の夢を応援する環境が醸成されるのか、思いを巡らせる。
二人の意見に耳を傾けながら、確かに電灯はあった方が良いし、思いを口にできる環境が整っていくほうが望ましいと感じた。しかし、都市と比較し盲目的にその後を追ったところで、秋田では実現できないことも多いだろう。自分たちが残したいものの真の価値は何なのか?そして保守的な考えが色濃く残るコミュニティで、どのような変化なら実現でき、許容されるのか?そんなことも考えさせられるワークだった。

人が変わり、大学が変わる
大会議の締めくくりは、COI-NEXT 秋田拠点を構成する3大学、秋田県立大学の足立幸司先生、秋田公立美術大学の小杉栄次郎先生、国際教養大学の工藤先生、そして県外からのゲストとして沖縄科学技術大学院大学(通称OIST)の田中康進先生を交えたパネルディスカッション。ファシリテーターはパネルディスカッション2から続いて株式会社Q0の林千晶さん。

まず始めにそれぞれから「森と木材」「森と空間」「森とまち」「森と技」というカテゴリーで行っている研究や取り組みについての紹介があり、続いて田中先生からOISTの取り組みについてのプレゼンテーションがある。OISTは、秋田拠点よりも先にCOI-NEXTの本格型の採択を受けた”先輩プロジェクト”でもある。
OISTでは、学際的な研究、すなわち様々な学問分野が連携し、社会や自然を見ることが大切にされている。現代の社会課題は極めて複雑であり、様々な知恵、考え方を持ち寄る必要があり、その際「コラボレーション」に留まることなく「コンバージェンス≒違うものを組み合わせる」視点がより求められているそうだ。
研究者や主導者の「やってみたい」「もっと知りたい」「解決したい」という純粋な気持ちを出発点とすることが大切であり、課題解決に偏りすぎてはいけないという点も強調された。仕事や生活の中では効率や解を求めることが重視されがちである。しかし探究心や問いを起点に深めていく、広げていくという姿勢は、秋田のソウゾウの森にもあてはまるかもしれない。

ひと通りそれぞれの取り組みの紹介が終わったとき、林さんから問いが投げかけられる。「人、大学、社会が変わらないといけないとされる中、人はちょっと変わってきてるんじゃないかなって思う…じゃあ、大学はどうでしょう?」
まず足立先生が口火を切り、「大学は人材育成及び課題解決の場。私自身、町医者的な立ち位置を目指している」と発言。地域の課題を病気や怪我と見立てた時、総合病院が担う大きな治療だけでなく、市民が不安を抱えている時、気軽に相談できるようなポジションに移行していきたいということだろうか。
小杉先生が「秋田公立美術大学はまだ10年の大学であり、農学や工学と比べるとアートは社会につながりにくい。しかし、少しずつ卒業生が秋田の社会と関わり始め、ひいては県内の他大学の学生との協働も生まれてきている」と続ける。大学が地域に開かれる一歩目は、学生および卒業生が地域で活動していくことでもあると感じているとのこと。確かに、今年度の会議を振り返ると、卒業生も含めた各大学の学生が多く参加していた。
そして、「まず、ソウゾウの森という言葉が広がり、何人かは『自律的な豊かさ』という言葉も口にしていたことが嬉しかった」と付け加えたのは工藤先生。コンセプトや合言葉を定義し、社会に広めていく、人々に浸透させていく。大学を開くというのは、こんな形もあるのかもしれないと思わされる。最後にファシリテーターの林さんも「地方の使う言葉は地方が作るべき」と力強く語っていたが、そんな一歩目がソウゾウの森会議から生まれつつあるのは間違いない。

大会議冒頭、COI-NEXT 秋田拠点のプロジェクトリーダーである高田克彦先生の「大学は変わることが求められている」という言葉が示すように、教授や学生単位、ひいては大学が変わることが求められている。それは物理的・精神的に大学という場、リソースにアクセスしやすくなることに加えて、教授や学生が地域に出て行き、研究で得た気づきや発見を少しずつでも地域や市民に共有していくことも含まれるだろう。その1つに国際教養大学の工藤先生が進める、「〈自律的な豊かさ〉の評価指標の確立」も含まれる。
自律的な豊かさ、どう測る?
大会議の中で、工藤先生から秋田における「〈自律的な豊かさ〉の評価指標の確立」という研究プロジェクトの一環としてアンケート回答の依頼がある。医療や介護、仕事や教育、地域の担い手のことなど、多くの課題があると認識されている秋田県であるが、初めて訪れる地域外の人からは充実している、豊かであると見られる側面もあるという。その豊かさを解き明かすための設問であり、既存のものさしでは測れない、秋田発の豊かさを定義するための研究だ。

秋田を構成する一個人としてアンケートに答える中で、いくつかの設問が印象に残った。
例えば、「コミュニティや仲間の中で自分の考えや思いが伝わっていると感じるか」という質問。確かに、学校や会社と比べると意図して住んでいる地域では自分の思いを聞いてくれる人がおり、一員として意見を尊重してくれる環境があると感じる。
また「『◯◯(地域名)では〜』という表現を使って話すことが多いか」という問いもあり、「◯◯(地域名)界隈では」「◯◯(店舗名)常連では」と語ることが多いと気づく。自身の地域への帰属意識、お店への愛着が自分の拠りどころになっているのだろうか?
「私は私の人生を楽しむことができている・望んでいる人生を歩めていると感じているか」という設問では、「できている」と力強く回答できた。まだ頑張りたいところ、未熟だと感じることは多々あるが、人生の舵を自分で握れていることで充足感を得られていると感じる。
新たな価値観、ものさしを創造する本研究、今回はまだ予備調査とのことだが、本調査のタイミングになったらぜひあなたにも回答してほしい。
集う場、つなぐ
いよいよ終盤。参加者にもマイクが渡される。締めくくりの感想を求められた移住者の方は、ディスカバーマップのワークに取り組みながら、魅力や伝統は確かにあるけれど「私たちは楽しく暮らしているだけ」と思ったことをシェアしてくれた。この、楽しく暮らしているだけという言葉の主語が、「私たち」である点が気になった。
秋田では、課題や不便さを乗り越えるために友達や家族、ご近所さんや仲間内で助け合うことが多く見られる。「私」だけではなく「私たち」で考える習慣がつくのだろう。今までの強制された「私たち」ではなく、自ら選んだ道や、役割を担えている上での「私たち」では感じ方が違うのかもしれない。
今の世の中、自分のことだけを考えていれば十分なこともある。ただそれが逆に寂しさ、孤立を生んでいることもあるのではないだろうか。一人で悶々と考え「やりたいこと」「知りたいこと」を言語化することは容易くない。自身の住む地域を選び、暮らし方、働き方、週末の過ごし方を決めるためには、多種多様な人に会い、比較、対話の中から気づく機会が必要な気がする。




秋田で暮らしている人と訪れる人が混ざりあい、足元にあるものに目を向け、様々な境界を超えた考えを共有しあう。多様な人と集うことで、「私」の世界は広がり、「私たち」という主語で語り始める。ソウゾウの森会議はそのきっかけをつくり続けている。
ソウゾウの森が今後も広がっていくためには、会議のない冬も、一人一人の木々がお互いに支え合い、雪や寒さに押しつぶされないように助け合わなくてはいけない。春にまたソウゾウの芽吹きに集えることを願って。集う場、つなぐ。

取材・文/大橋修吾 写真/星野慧 編集/加藤大雅
開催概要
【テーマ】
混ざりあう森【開催日時】
2024年11月30日(土)13:00~18:00【場所】
にぎわい交流館AU 2F 展示ホール【参加者】
86名秋田 COI-NEXT拠点 ソウゾウの森会議
主催:公立大学法人国際教養大学
共催:株式会社Q0
連携:公立大学法人秋田県立大学、公立大学法人秋田公立美術大学