12月13日、秋田市の秋田市文化創造館にて「ソウゾウの森大会議2025」が開催されました。
ソウゾウの森会議自体の大きな転換点を予感させる大会議。2回に分けてその様子をお届けします。
粉雪が舞い、うっすらと大地に雪が積もる。太陽も顔を出す日が減り、淡いモノクロの景色が広がり始める12月中旬。ジャケットを羽織り、寒さに負けじ「よしっ」と気合いを入れて向かうのは、秋田市文化創造館。今年の締めくくりとなる「ソウゾウの森大会議2025」に参加するためだ。

自律的な地域起業家が走り出す
館内で催されている他の行事の賑やかさを横目に、2階のスタジオAへ。会場入って左側の壁には、参加者の種が根を張り、芽吹いた1〜2年目。右側の壁には、それぞれがつながり、枝葉を広げ、ネットワークとなってきた3〜4年目の会議の様子がバナーとして展示されており、長いプロジェクトの歩みを描き出していた。
度々ソウゾウの森会議の開催場所となってきた秋田市文化創造館には、本年度行われた会議の地域主催者や参加者はもちろん、県外からのゲストや初参加の方まで、総勢約80名が集まった。


まず、主催である国際教養大学の工藤尚悟先生から、ソウゾウの森会議の歩みとこれからについて紹介がある。
「自分らしい生き方を”想像=Imagine”し、秋田という風土の中での働き方を”創造=Create”する」。この2つのソウゾウをかけて名付けられたソウゾウの森会議。これまでは県内各地を回り、県内外の参加者が様々なテーマを通じて交流し、考えを発散・発展させていく場であった。
その締めくくりとして毎年行われる大会議。2023年は「ソウゾウをひらく」という掛け声のもと、異なるフィールドから多くの参加者が集まった会となった。2024年は顔なじみも増え、話しやすくなったことで対話や議論が増えた「混ざりあう森」。1つの問いに対し皆で意見を出しあったり、個人的な悩みや思いを共有したりと、つながりや相互理解も深まった。
そして、今年のテーマは「ソウゾウの森、走り出す」。次年度からこれまでのソウゾウの森会議に参加してきた人自身が「私は秋田でこんなことをやっていきたい」「こんなことをやっている人がいたら自分はぜひサポートしたい」と計画を行動に移し、地域起業家精神を持った人たちが、自律的に動き始めるフェーズとなる。自律的とは、外からのものさしで価値があるないと判断するだけでなく、取り組む個人が、豊さや価値を定義していくこと。次年度から自律的にプロジェクトに取り組むチームを結成する、それが今年の大会議のゴールだ。

出会うことで育ち、広がる、私たちの森
まずは参加者の緊張を解きほぐし、互いを知るためのアイスブレイク。ファシリテーターは、秋田市文化創造館ディレクターの芦立さやかさんだ。手元に配られたのは、木の年輪が描かれたワークシート。ピザのように三分割された木の断面の1ピースごとに、自身のお気に入りの場所のヒント「どんな場所か?」「何をして過ごすか?」などを書き込む。


参加者は、ワークシートを携え、じゃんけん列車のように次々と挨拶をしながら、出会った人にお気に入りの場所についてヒントを出す。自分の名前や仕事でなく、お気に入りの場所について話すことで、自然に価値観を共有でき、クイズ形式で楽しく相手のことを知ることができる。
お互いにとって身近な場所であると当てることができ、正解すればワークシートに描かれた木の年輪をカラーマーカーで塗りつぶす。人との会話を繰り返すことで、木の年輪が一層また一層と成長する様子が表現されており、ソウゾウの森会議が目指す、人との出会いや交流の重要性が伝わってくるワークに感じた。
ただ当ててもらうだけであれば分かりやすい場所を書くのが良いのだろうが、「正解が出てくることはないだろうけど、留学中に見て感動したヨセミテ国立公園は入れたいな」と思い、難問を1つ入れた。案の定当てられることはなかったが、会話の中で、留学していたこと、海外の国立公園で感じたスケールの違いなどを語れたことは自分を知ってもらう良いきっかけになった。あえて分かりやすくしすぎないことで、自分のこだわりや強い思いを伝えられるのもこのアイスブレイクの特徴かもしれない。


出会った人との会話で気づかされたことがある。それは「私はずっと北海道に住み、教育関係の仕事をしていたが、今は秋田に住み主婦をしている」という人。「秋田在住」や「主婦」、今その瞬間の情報だけで判断しては表層しかわからない。「はじめまして」では想像もつかない過去の経験もあるし、現在の肩書や所属では語りきれないその人の趣味やこだわりなど、今の秋田にも確かにある足元の多様性を感じられるワークだった。
場が温まったところで会議へと移る。2025年に取り上げられたテーマを振り返りながら、地域主催者の得た学びや気づきを聞き、参加者の中に生まれた「私はこれに取り組みたい」「深めてみたい」という芽吹きを覗いてみよう。すでに行動に移している参加者を知ることで、私たちも活動を起こす際のヒントを得られるかもしれない。

既に足元にある活動の種
まずは今年の会議を振り返るプレゼンテーション「混ざりあう森の先〜2025年のソウゾウの森会議」に。今年度地域主催者を務めた人たちが、各回の概要について、ゲストからのインプットや、参加者からの発言を交えながら紹介し、会議を通じて得た学びや気づきが共有された。
まずはじめに国際教養大学の工藤尚悟先生が紹介するのは、年度始め4月に行われた「企む、ソウゾウの森会議」と題された第17回。会議時点では空白になっていた7月の会議に向けて、どんなテーマで、参加する人たちにどんなことを体験してほしいか、考えてほしいか、参加者から提案してもらう会だ。「夫が山を相続する予定だが、どうしたらいいだろう?」というある人のモヤモヤと、山の管理を生業とする人が考えていた「森と人の関係を健康的に持続させていくためには?」という2つが合わさり、第19回会議が生まれることとなった。
続いて、5月に行われた第18回を帰省先の沖縄からビデオ通話で振り返ったのは、株式会社遊名人の東風平蒔人さん。仙北市田沢湖で行った「自然観光の持続性」を考える会は、既に田沢湖でコンテンツとして提供されているカヌーやサイクリングの体験に始まり、昼食は農家民宿のお母さんたちが準備したお米と具材を参加者全員でにぎり、旬の山菜の入ったお味噌汁を堪能した。地域主催者である東風平さんは「地域観光の価値は、新たに箱やコンテンツを作ることだけでなく、足元の暮らしを磨くこと」と言い、都市や観光地のコンテンツが画一化する中、多様性を維持していけるのは案外、変わらずに残っている地域の人々の生活や風土だと強調した。

7月に行われた第19回は、第17回をきっかけに生まれた「どうする?“うちの山”」がテーマ。森林の管理をする伊藤良太さんが、実際に山を相続する未来がある長男の嫁である金陽子さんと出会ったことで、共に地域主催者となり、このテーマでの開催が実現。自身の家・土地の他に、山や森も代々受け継がれることが多い地域において、どのように維持管理していくかという悩みが発端だ。山を皆で歩き、景色を眺め、管理や活用の課題を参加者と共有したことで、山の持ち主は確かに一人かもしれないが、金さんの一人きりで考えているという感覚は和らいだのだろう。会議終了後、「工藤先生から『うちの山から私たちの山になりましたね』というコメントがあり、とてもホッとした」と金さんがこぼしたように、参加者が提案したテーマの会だからこそ寄り添えた温かみを感じた。森林はつながっていて、紙の上での境界は山の中には存在せず、景色や山水は皆が享受しているもの。参加した人それぞれが、改めて山へと足を踏み入れることで、「うちの山」ではなく「私たちの山」だったと気づいた回だった。


9月に行われた第20回は、「小商いから見つめる地域の未来」をテーマに、530年続く朝市で有名な五城目町を舞台に開催された。地域主催者であった朝市わくわく盛り上げ隊を代表し、石岡香澄さんが紹介をする。午前中は朝市を散策、午後には歩ける範囲の小商いによるまちづくりを行う、東京国分寺のクルミドコーヒー店主の影山知明さんによる講演。「事業計画を作らない」ことや「一日一日の営業、一人一人のお客さん、一杯一杯のコーヒー」に集中することなど目の前の関係性に丁寧に向き合うことが強調された。石岡さんは、ある種ファンタジーとも思われる吹けば飛ぶような小さな存在や生活からでも、自分たちの理想とする未来が創造できる仲間のつながりが広がっていくのではないかと感じたそうだ。
アイデアを広げ、活動を始めるとき、私たちはなぜか新しくなければいけないと考える。しかし、足元にある当たり前の暮らしを磨き、続けていくことで、多様性は維持され、古さや懐かしさが翻って新しさとなるのだろう。ソウゾウの森会議の主催を経て、自らの活動を俯瞰したり、参加した人から新たな視点をもらったり。数々の化学反応が起きてきたことが伺い知れるプレゼンテーションだった。

第17〜20回会議の開催報告はこちら
第17回「芽吹いたソウゾウ、未来につなぐためには?」
第18回「足元の暮らしこそ、地域観光の出発点」
第19回「誰かの“うちの山”から“私たちの山”へ」
第20回「一人ひとりのソウゾウが植物のように育つ社会へ」
交わり芽吹く、活動の種
気づきや学びを得るのは主催する側に留まらない。続く「実りの森〜これまでの歩みを振り返る〜」と題されたセッションで壇上に上がったのは、能代市地域おこし協力隊の江南綾絃さん、にかほ市で地域プロジェクトマネージャーとして働く國重咲季さん、田舎の長男の嫁の金陽子さん、東北物産株式会社で新規事業開発部のプロジェクトリーダーを務める松永祥次郎さんだ。

栃木県出身の江南さんは、秋田県立大学建築環境システム学科に在籍しながら(現在は休学中)、木の香りを生かした事業を行う。ソウゾウの森会議を通して出会った秋田公立美術大学教授のフィールドが能代市であったことがきっかけで、市の協力隊として活動することを選び、木都という地域の文脈を汲みながら林業の現場で捨てられる枝葉を、香りの原料として有効活用することを目指している。活動をする中で、第14回会議で出会った「許容できる失敗とは何かを考えるべき」という教えを時折思い出すそうだ。それまでは失敗自体を恐れ、避けようと考えていたが、自分が受け止められる範囲を考え、失敗を想定しながら行動を起こすことでの学びや広がりに目を向けられるようになった。1〜2年という短い期間であっても、その人の中の障壁が取り払われ、少しの後押しがあることで、変化はスピードを伴って現れる。
國重さんは京都府出身で、国際教養大学進学を機に秋田を訪れた。一度就職で首都圏に出ながら「暮らしたいまちを自分たちでつくる」思いに共鳴し、現在はにかほ市で地域プロジェクトマネージャーを担う。日々、年長者から地域の歴史や残したいものについて話を聞いたり、若者と創りたい町や実現したい未来を語りあったりを繰り返す。地域で活動する中で「女性があまり前にでてこないこと」について疑問を感じることが多かったと語った國重さん。そんな彼女にとって印象深かったのが第16回。「誰しもが活躍できる社会を」をテーマにした会議で、女性の社会進出を阻むガラスの壁について初めましての人たちと話したことで、地域では話せていない話題があることに気づいた。普段の環境から離れた場所で対話することで共有できることもあるのだろう。

金さんは、行政職員ではあるが、あくまでもソウゾウの森会議に参加しているのは自分自身であるという気持ちから、あえて肩書きを「田舎の長男の嫁」としている。嫁という言葉に対して、マイナスなイメージを持つ人も多いが、違う側面を見せたいという思いを語った。参加者だった昨年度と異なり、伊藤良太さんと共同で第19回を主催した金さんが、引き続き考えたいのは、義祖父が大切に育ててきた「船の木」の活かし方。木が植えられた当初に想定されていた船を作るという目的以外に、”私たちとしての受け継ぎ方”を考えることで、一見ファンタジーと言われるかもしれない新たな答えが、ソウゾウの森会議からは生まれる気がすると続けた。家族や既存のコミュニティという閉じた中で考えすぎないことが、問題の解決、責任を一人に背負わせすぎないようにできるのかもしれない。
松永さんは建設関係や不動産を主体事業とする民間企業に属しながら、移住定住促進事業や外国人材受け入れのための協同組合運営、事業承継やスタートアップ企業の誘致など、産官学民連携を前提とした様々なまちづくりのプロジェクトに取り組む。ソウゾウの森会議で出会う、年齢も業界も違う人たちとの交流が、日々の仕事においても相手の立場を想像し、コミュニケーションの仕方への気遣いなどに直結するそう。

家庭や職場、地域コミュニティ…身の回りの閉じた環境で考えすぎないことで、”私”のモヤモヤや悩みが”私たち”のものに変わる。オープンに話し、一度立ち止まることのできるソウゾウの森会議では、問いを投げかけにくいことに改めてスポットライトが当たり、じっくり話し合うことができる。活動の種は、私たちの中に、そして足元に既に存在している。それらが、ソウゾウの森会議によって地表近くに表れ、芽吹き始めていることを実感した。
セッションのあと、各テーブルごとにこれまでの時間での気づきを共有し、インプットの多かった前半を振り返る。後半はいよいよ、参加者それぞれの活動の種がメインとなる。

ここで一休み、秋田のつながりを味わう
13時から18時に及ぶ長丁場の会、ここで一休み。秋田の地の素材を使ったドリンクやスイーツが振る舞われる。
五城目の「福禄寿酒造」の甘酒は、酸味が利き、さっぱりながら、しっかりお腹にたまるエネルギーチャージ。合わせるのは、同酒造の酒粕を使った「さとう菓子店」の甘塩っぱいパウンドケーキ。欲張って、「豆腐百景」と「マザー食堂savu.」のコラボレーションによるおからクッキーもお土産にもらった。食感はオートミールのようなザクザク感、一方でそこまで重くない食後感はおからならではだろうか。訪れたことのある店内の様子が目に浮かび、作り手の表情が直に伝わってくる。第11回の地域主催者であった「さとやまコーヒー」は、駅前の百貨店への実店舗オープンと重なり忙しい時期であったが、ドリンクの選択肢を1つ増やしてくれた。




ここ数年で更に広がったコラボレーションの輪を味わい、まだ見ぬつながりの可能性へワクワクした気持ちが駆り立てられる。いよいよ動き出す参加者の種。そこからどんな森が生まれていくのだろう?

取材・文/大橋修吾 写真/星野慧 編集/加藤大雅
開催概要
【テーマ】
「ソウゾウの森、走り出す」【開催日時】
2025年12月13日(土)13:00~18:00【場所】
秋田市文化創造館【参加者】
76名秋田 COI-NEXT拠点 ソウゾウの森会議
主催:公立大学法人国際教養大学
共催:株式会社Q0
連携:公立大学法人秋田県立大学、公立大学法人秋田公立美術大学