12月13日、秋田市の秋田市文化創造館にて「ソウゾウの森大会議2025」が開催されました。
ソウゾウの森会議自体の大きな転換点を予感させる大会議。2回に分けてその様子をお届けします。
前編はこちら
休憩後、席に戻ると、向かいに座っていた高校教師だという参加者が、「もっと早くこういう場に参加していればよかった」と漏らした。その理由を尋ねると、「勉強の意味をいろんな角度で話せるようになっていただろうし、僕自身もまだ知らないことが多く、学び続けられると思わされたから」と話してくれた。確かに、仕事や生活などの環境が異なる人と会うと、慣れ親しんだ日々が違う角度から見られるようになる。同じ秋田に住み、等しく時間を共有していても、関わる人が変わるだけで、引っかかるところ、より知りたいと思う点は変化する。
後半は、拠点とする場所や、歩んできた業界が異なるゲストのトークを通し、普遍的なものに気づく時間。そしていよいよ、芽吹き間近な活動の種を見ていこう。
となりの森を覗く
まずは、株式会社Q0代表取締役の林千晶さんからゲストの紹介がある。株式会社良品計画、三越伊勢丹研究所などでディレクションをてがけ、現在は積水ハウス株式会社デザイン設計部長を務める矢野直子さん。そして、島根県隠岐郡海士町で廃校寸前の隠岐島前高校への島留学の創設や、ふるさと納税を原資とした事業投資の仕組みをつくってきたAMAホールディングス株式会社代表取締役の大野佳祐さん。それぞれの業界や地域で自身で問いを見つけ深め、築き上げてきた実践を聞くことで、私たち秋田にも当てはめられるヒントを探す。

ソワソワの育て方
林さんから「私の憧れの人」と紹介のあった矢野さんは、大学卒業後に無印良品を手がける株式会社良品計画に入社。1980年の立ち上げ当初は47品目だった無印良品だが、今やその数は7000品目以上。
「よく無印良品はシンプル、ナチュラルと言われるけど、その所以はデザインを洗練させ、適切な素材を使うこと」と矢野さん。包装簡略化など、無駄を削ぎ落とすことで、結果としてシンプル且つ洗練された商品が生まれてきたそう。
大切にしているもう1つの視点が、「これがいい」ではなく「これでいい」と手に取る人が思えること。「100万円の椅子を部屋に1つ置いたとして、その他を無印良品で固めても、これでいいねと思える」こと。主役を支える生活用品と言うのだろうか。受け手が感じとる「シンプル」というイメージは結果である、ということが印象に残った。

続いて、矢野さんがスウェーデンに住んでいたときの話になる。「ある時、びっくりしたんです。家具・インテリア雑貨のIKEAの駐車場には、ベンツも年季の入った車も停まっている。お金持ちの方にはお金持ちのIKEAの使い方があり、お金のない人には買わずともお店の展示自体がインテリアのヒントになっているんだということに」
確かに、日本の家電量販店や家具屋を想像しても、実際の使用シーンが再現されていることは稀だ。また、矢野さんは「スウェーデンではカーテンを閉める習慣があまりなく、窓から誰かの家を見るのが当たり前」と紹介。暮らし自体が、ファッションのように自己表現の手段になっているそうだ。無印良品の価値が、どんな人でも生活に取り入れられるシンプルさであれば、IKEAは逆にそれぞれの商品に特徴を持たせながら、幅広いお客さんを取り込み、どんな人でも自己表現の核となる製品と出会える、ということになるだろう。
さらに、話は三越伊勢丹研究所時代に手掛けた「節のある椅子の展示会」誕生の経緯へ。良品計画時代から行程を経験することを大事にしているという矢野さん。椅子製造の工場を訪れた際に、片隅に積み上がった背もたれ用の木材を不思議に思い、「これはなんですか?」と尋ねたところ、返ってきた答えは、「削りを進める中で、木の節が出てきてしまい、製品には使えなくなったもの」というもの。
「もったいないと思った。これでいいのだろうか?とソワソワした」
この気持ちをそのままにせず、同じくもったいないと思っていた生地の端材を座面として組み合わせ、一つとして同じものがない「節のある椅子」の展示が生まれたとのこと。ソワソワを育て、自身が価値のあると思うものを掛け合わせたことで、均一で綺麗であるという価値とは違うが、同じソワソワを持っている人に届く製品が生まれたという話だった。引き算、足し算、掛け算、それぞれに違った価値が生まれるが、どれかが一番というような優劣はなく、商品ごとに魅力を感じとる人はいる。一つの物差しで測ることなく、一人のソワソワを育てることで、自律的な価値を生み出す、という方法が可能だと感じる事例だと感じた。

応答する力
続く大野さんがフィールドとするのは、「ないものはない」で有名な島根県隠岐郡海士町。平成の大合併時代に自立の道を選んだ人口約2,200人(2025年3月時点)の島には、大型ショッピングモールもコンビニもなければ、中高生がプリクラを撮れるゲームセンターもない。けれど、人が幸せに暮らしていくために必要なものは全部あるじゃないか、という2つの意味を掛け合わせたキャッチコピーだそうだ。

地方の多くが人口減少する中、その度合いが緩やかになった海士町は、1996年に当時の役場職員らが島外からの移住者を増やす政策を掲げた。「そんな外からの人は受け入れられない」と一度議会では拒否されるも諦めず、「農家の嫁を募集するのであればどうだ?」と投げかけ、(今では少し物議を醸すかもしれないが)この時は承認を得た。一度でへこたれてはいけない、手を替え品を替え、やり続ける重要性を大野さんは説く。
「地方創生は仕事をつくることが大事と言われる一方で、人を集め、異なる考えも共存しえる環境を整えることがまちづくりにつながる」と大野さん。例えば、島内出身者だけでは統廃合も検討された高校が、移住者との共創で生まれた「島への留学」という高校魅力化の取り組みにより、全校生徒の数が160人まで回復した。また、コロナ禍でのお試し移住制度、20代対象の3ヶ月〜1年のインターン制度の開設を通し「全く知らない土地にいきなり就職するのではなく、若い時に関わった会社や地域へは、就職や移住のハードルが下がる」という気づきも生まれた。結果的に10代〜40代の労働人口が増加しているそうだ。
大野さんが大学院で取り組んだ研究も紹介される。大江町長のような一人の突出した存在も大事だが、海士町が特異であったのは、初期に移住してきた移住者を軸に、地元出身者とともに「いいね、面白そう」「まず、やってみようか」の渦が広がっていったことにある。
「ここで一本映像を」と、大野さんが見せてくれたのは、プレゼンテーションイベントTEDの「ムーブメントはどのように起こるか?」という動画。クレイジーな踊りをする人が、しばらく1人で踊っているところに、2人目、3人目のフォロワーが加わり、あっという間に束になって踊る群衆が生まれる様子が流れる。大野さんは言う、「”Response+ability”=”応答する力”を持つ人がどれだけ近くにいるかが鍵だ」と。地元の人だけでは、同調性の高いコミュニティとなってしまい、あとに続くフォロワーが生まれる可能性が低くなる。いかにして、応答する力を持つ人を増やすか?地域で起業やプロジェクトを際に、心に留めておきたい問いだ。


締めくくりに、隠岐島前高校の行事「火の集い」の写真がスライド一杯に映し出された。校庭に大きく輪の形に広がった生徒が1人、また1人と松明に炎を灯している。最後には中心に作られた焚き火に全員の松明が投げ込まれ、一気に大きく燃え上がる。活動の広がりもこの炎のように1人ずつ広がるだろう。それぞれの炎は小さかったとしても、一度中心に投げ込まれるとムーブメントは「ワッ」と大きく芽吹き、遠くからも見えるようになる。地域を構成する個人が、まず松明を掲げ、隣の人がその炎を広げることに一役買う。この応答する能力が、これからの地域を作り上げていく上で重要となりそうだ。
ソワソワは与えられるものではない
林さんにマイクが戻り、残り時間は3者でのクロストーク。
林さんからの「秋田の印象について教えてください」との問いに、大野さんが「教育畑出身なので、やはり全国学力テストトップクラスの印象が強い」と答えた。矢野さんもその意見に同意を示しつつ、一方で「答えがある問いに対してまっすぐ向かう力はあると思うんです。けど、じゃあ答えのない問題に向かえるのか」と続けた。
確かに、今の時代に何かを始める際、答えはあらかじめ用意されていないことのほうが多い。いや、そもそも問いの立て方から考える必要がある。となりの森を覗いたことで、今までの価値を疑ってみることで生まれる変化や、思いもよらない共感の広がりを知ることができた。秋田という地で、私たちなりのソワソワの種を見つけ、育てていけるかが問われている。

ソワソワの芽吹き
これまでのプログラムを通じて、参加者の間にソワソワが少しずつ広がってきた。ここで、主催の工藤尚悟さん、林千晶さんから次年度以降のソウゾウの森会議について発表がある。
最も大きな変化は、ソウゾウの森会議という場が、これまで培われてきたネットワークから生まれてくる活動によって主導されることになる点。具体的には、今日この場に集まった参加者が提案する「取り組みたいテーマ」をもとにチームが立ち上がる。次年度以降は、誕生したチームに対して、メンターによる伴走やソウゾウの森会議開催の予算などの支援がなされ、それぞれの活動を一からつくり、育てていくフェーズに移る。今日の大会議はその出発点となる重要なタイミングだ。

というわけで、まずは「こんなことをやりたい」「こんなことをやってほしい(サポートしたい)」を考える個人ワークの時間。自身が主導するのみでなく、フォロワーとして活動を支える立場も尊重されているのが、大野さんの話にも通じるところがある。「自分は何をしたいだろう?」「どんな活動だったら関わってみたいだろう?」 与えられた5分があっという間に過ぎていく。
続いてテーマの発表。林さんから「チームをつくって活動をしたい!という人は、ぜひ前に出て発表してください」と投げかけられると、会場全体に一瞬緊張が走る。しかし、ぽつりぽつりと手が挙がりはじめ、気づけば続々と。最終的にステージ前方に集まった提案者はなんと20人。サードプレイス、狩猟、アート、テクノロジーと子供など、多種多様。過去に地域主催者だった人、参加者だった人、初めて参加した人も入り混じって並んでおり、仕事に関連することを挙げる人もいれば、全く関係のないことを挙げている人もいる。




ファシリテーションを務めた林さんも、想定以上の数に驚きを隠せない。対話や現地での学びを通し、結果を急がず、参加者それぞれがソワソワをじっくり育てたことで、その芽吹きが現れたのだろう。


発表された20のテーマに対し、残りの参加者は、関わりたいテーマに合流しチームとなる。20のうち8テーマはチーム組成の要件となる3人以上に満たなかったため、その発表者は領域が近いテーマのチームに合流することになった。
私もいつもなら自らテーマを挙げるが、大野さんの話もあったことで、今日はフォロワーになってみようと思い、気になったテーマの席へ合流した。
ソワソワをソウゾウへ
私が選んだテーマは「ローカルアート」。ベンチャー企業の社員で、東京からパートナーの地元である秋田に引っ越してきた方がテーマオーナーのチームだ。早速、なぜそのテーマにしたのか聞いてみる。「秋田に来て、地元の人が1年に数日の祭りのために、残りの日々を準備やワクワクを貯めていたり、働く場所や住む場所を祭りや地域行事起点で決めていることが衝撃だった」とのこと。確かに、身の回りでも竿燈祭りのために秋田市で働く人や、角館の曳山に参加するため、祭りの日に有給休暇が使えるかを職場選びの条件とする人を知っている。
40分という短い時間の中で、テーマについてそれぞれが持っている情報やイメージを共有し、さらに3年から5年という時間軸で、マイルストーンや付随するタスクを考えていく。




グループでの議論では、祭りの行事を残した写真は多くあるが、それに取り組む「人」にフォーカスしたインタビューや祭りの準備などの映像は少ない。チームとしては、年々担い手が少なくなる祭りや行事を受け継ぎ、今も担っている人を記録する意味でアーカイブ映像を残すこと、それをプロジェクトの一環とするアイデアが出た。最終的な成果物に関しては、元々は新潟県・越後妻有の『大地の芸術祭』などが参考事例として挙がっていたが、私自身が観光分野に関わってるため、芸術祭という形に拘らず、観光ツアーや単発のコンテンツとして造成していく可能性についても考えたいと提案した。長丁場の会も残り時間わずか。

あっという間に40分が過ぎ、全体共有の時間に。1グループ2分で発表し、林さん、矢野さん、大野さんから一言コメントがある。
「秋田の民芸の点と点を結ぶ」をテーマに発表したグループは、県内各地に点在している民芸や民具について学び、背景にある作り手の思いやストーリーを発信すること、東京へ展開することなどを提案した。これに対し、「集めること、発信するのは確かに必要なことであるが、続けるためにはビジネスとして成り立つか、いかにして持続させるかを考えるべき」と矢野さん。理想だけでは継続できないというフィードバックに深く頷かされる。
続いて、「つなげる、つながる」をテーマにコミュニティを作ることを発表したグループ。「ぜったいに実現する」と書かれただけで、具体的なマイルストーンが設定されていなかったため、「具体的なアクションや振り返りのポイントを作らなければ、形にならない」と林さんから厳しい指摘があった。
「ローカルアート」をテーマにした私たちのグループは、「地域で数多く行われてきた芸術祭やトリエンナーレが、現在どのように捉えられ、継続されているのかを調べ、比較検証する必要したほうがいい」というフィードバックをもらった。確かに、各地で行われてきた取り組みが地域にどのような波及効果を生み、現在どのようになっているのかについて、私たちは案外知らないかもしれない。
発表した全12グループに対してなされたフィードバック。個々のテーマや活動内容へのアドバイスに加えて、全体に共通していたのは、どれだけ具体的に道のりを描けるか、そして続いていくための仕組みやアイデアが伴っているか、という点。活動の具体性と持続性が問われていることが印象に残った。


全体共有とフィードバックの時間を通じて、これからのソウゾウの森会議は、これまでとは異なるフェーズに入ることをひしひしと感じた。県内、全国各地にある取り組みを参照しつつ、私たちはこの秋田の地で何をするのか、仲間と具体的にどう実現するのか。考えるうえでのギアを一段、いや二段上げ、実際に行動していかなくてはならない。
ソウゾウの森、走り出す
クロージングで、林さんから締めくくりの言葉を求められた大野さんは、「他の地域で同じように募ったとして数人出てくれば良い方、テーマの提案者が20人近く出てきたのには本当に驚いた。数年後に彼・彼女らがどういう活動をしているのか、どんなことを考えているのかがとても楽しみ。一つ一つのステップがどのように実現されるのか、また見に来たい」とコメント。
矢野さんからは、「今日が原点。人がムーブメントに巻き込まれていく状況をどう作るか?反応してくれる人をどう増やすか?今度は皆さんが1人目として行動しなければいけない側になる。成功した時だけでなく、困った時にこそ、発信をしてほしい。悩みをオープンにしていけばいくほど、いろんな人が助けてくれるはず」と、活動していくうえで心がけたい姿勢が共有された。
最後に工藤先生からは、「これまでは新しいことを学び、対話を通し考えを広げる発散型だったソウゾウの森会議だが、今日を境にテーマを絞って動いていく。チームにはメンターがついて、横でもつながり、ピアプレッシャー・ピアサポートを受けながら一緒に動いていく形となる」と参加者一人一人の活動の種に光を当てる言葉が添えられた。

ソワソワが芽吹き、成長し、木となり、やがて森になる。それまでの道のりはまだまだ長い。しかし、現状や今の常識にとらわれず、問いを投げかけ、先陣を切る。一人で難しければ仲間を集め、助けを必要とする人がいれば応じる。そうした動きの連鎖によって、森は着実に広がっていく。これまでのソウゾウの森会議が育んできた土壌は、人々が応答し、対話し、ともに協働していくことで引き続き豊かになっていくだろう。
ソウゾウの森会議が始まってから数年の間に、たくさんの多様な仲間が集った。ここからの数年で、秋田で「自律した豊かさ」のさらなる探求が続いていく。それが全国、そして世界に広がるのを想像するとワクワクする。そのためにも、まずは手元のソウゾウからはじめよう。

取材・文/大橋修吾 写真/星野慧 編集/加藤大雅
開催概要
【テーマ】
「ソウゾウの森、走り出す」【開催日時】
2025年12月13日(土)13:00~18:00【場所】
秋田市文化創造館【参加者】
76名秋田 COI-NEXT拠点 ソウゾウの森会議
主催:公立大学法人国際教養大学
共催:株式会社Q0
連携:公立大学法人秋田県立大学、公立大学法人秋田公立美術大学